2025年6月16日月曜日

衝撃!ミネソタ州議員暗殺の裏に隠された政治テロと日本メディアの隠蔽の闇

まとめ

  • 2025年6月14日、米ミネソタ州でホートマン下院議員と夫が殺害され、ホフマン上院議員と妻が重傷を負った政治的動機の暗殺事件が発生。
  • 容疑者ボールターは逃亡中であり、車から70人以上を名指しした殺害リストが見つかり、事件が政治的テロである可能性が浮上。
  • ホートマンは不法滞在者健康保険廃止に賛成するなど信念を貫いた議員で、ホフマンは教育と福祉に尽力した重鎮だった。
  • 日本メディアは事件の背景報じず、報道の偏りや政治的配慮が懸念され、国民の知る権利が脅かされている。
  • 過去の安倍元首相暗殺と公判遅延が示すように、日本でも政治的暴力のリスクが高まりつつあり真実追求の必要性は、ますます高まりつつある。
衝撃の事件が米国を揺るがす
暗殺されたメリッサ・ホートマン下院議員と夫マーク氏

2025年6月14日、米ミネソタ州で異様な銃撃事件が起きた。州議会議員2人が襲われ、メリッサ・ホートマン下院議員と夫マーク氏が未明に自宅で暗殺された。同じく狙われたジョン・ホフマン上院議員と妻は重傷を負ったが、手術で命をつないだ。ウォルズ知事は記者会見で「政治的動機による暗殺だ」と断言し、州民を震撼させた。容疑者はバンス・ボールター、57歳。警備会社プレトリアン・ガード・セキュリティーでパトロール部門の責任者を務め、軍の訓練を受けた男だ。今、彼は逃亡中だ。州を挙げての大捜索が始まり、地元警察トップのマーク・ブルーリー氏は「尋常じゃない規模の捜査だ」と息巻く。ボールターの車からは、70人以上を名指しした殺害リストが発見された。議員や中絶支持者らの名が並び、事件が単なる犯罪を超えた政治的テロである証拠が浮上した。警察は複数の容疑者を拘束し事情を聴いたが、勾留者はおらず、捜査は混迷を深めている。

ホートマンとホフマンの信念と背景
防犯カメラの映像に、暗殺犯バンス・ボールターが警察官のように見せかけたラテックス製マスクと警備員の制服を着てミネソタ州議員の自宅のドアをノックする様子が映っていた。



メリッサ・ホートマンは1970年5月27日、ミネソタ州ヘネピン郡で生まれた。弁護士として出発し、2005年から州下院議員としてツインシティーズ北部を支えた。ボストン大学で政治学と哲学を学び、ミネソタ大学法学部で法務博士号を取得後、ハーバード・ケネディスクールで公共行政学修士号を手に入れた。アル・ゴアやジョン・ケリーのインターン、ジョン・サマービル判事の事務員を経験し、抜群の経歴を積んだ。2023年の立法会期では、民主党が僅差で多数を握る中、中絶権の拡大、娯楽用マリファナの合法化、有給家族医療休暇の義務化を推し進め、ミネソタを変えた。しかし、2025年、彼女は不法滞在者の健康保険廃止に賛成し、党内の反対を押し切って共和党と手を組んだ。この決断が命を奪う引き金となったと見られる。彼女の勇気は、党の枠を超えた信念の証明だった。

ジョン・ホフマン上院議員は1965年1月17日生まれで、ミネソタ州アノカ・ヘネピン郡を代表する民主農民労働党(DFL)の重鎮だ。2005年からアノカ・ヘネピン学区教育委員会で活躍し、連邦機関の調整理事会で幼児教育や特別ニーズ児童の支援に尽力した。2012年に初当選し、以来2016年、2020年、2022年と再選を重ね、2017年から2020年まで少数党幹事長を務めた。彼は教育と家族支援を重視し、予算配分や社会福祉政策で実績を残してきた。今回の事件で標的にされたのは、彼のこうした立場が政治的対立を招いた可能性を示唆している。

ミネソタ州議会

この事件の根底には、ホートマンが支持した法案がある。不法滞在者に無料健康保険を提供する政策を廃止するものだ。コスト増と予算赤字を憂う共和党の声に応えた選択だったが、民主党内では異端とされた。だが、その勇気が彼女を標的に変えた。捜査当局は、ボールターが警察官を装い複数の政治家を狙ったと明かす。政治的意見の違いが暴力に結びつく危険性が、痛ましい形で露呈した。

日本メディアの沈黙と日本の危機

米国のこの恐ろしい現実を示すこの事件の背景を、日本メディアはスルーしている。なぜか。国際ニュースでは反トランプデモや中東情勢が優先され、他の事件に埋もれる。不法移民や政治的暴力はデリケートで、国内の政治バランスを崩す恐れがあるから報じない可能性もある。さらには「報道しない自由」で国民の知る権利を奪っているとの批判さえある。この沈黙は、反トランプデモの本質や政治的暴力の脅威を隠してしまう。

日本では新聞紙の暗殺報道の見出しが全て「安倍元首相撃たれ死亡」という不気味な一致を見せた

過去の日本にも政治的暴力の暗い影が残る。2022年7月8日、奈良市で起きた安倍晋三元首相の暗殺だ。演説中、41歳の男が手製の銃で撃ち殺した。動機は統一教会への恨みとされるが、事件後、メディアは関係者の名前を隠し、国民に真実を伝えなかった。さらに異常なのは、2025年6月16日現在、暗殺から3年近く経つのに公判がまだ開かれていないことだ。この異常事態は、政治的圧力や情報隠しの可能性を示し、ミネソタの事件報道と重なる。

ミネソタのテロは、米国の政治的分断が暴力を生む現実を突きつける。ホートマンとホフマンの信念が命を奪われ、または脅かされた悲劇だ。日本メディアの沈黙は、報道の偏りや政治的配慮、情報隠しの兆しを示し、この闇はますます深まりつつある。安倍元首相の事件と公判遅延が示すように、政治的暴力は対岸の火事ではない。今、目を覚ませ。真実を求める闘いはここから始まる。

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2025年6月15日日曜日

イスラエルのイラン攻撃:核開発阻止と中東の危機を読み解く

まとめ
  • イスラエルのイラン攻撃は核開発阻止と体制崩壊を狙い、分裂したイラン社会をシリアのような内戦状態に追い込む戦略だ。
  • ネタニヤフは1995年の著書でイランの脅威を予見し、「抵抗の枢軸」による攻撃や2024年のイラン直接攻撃を警告。
  • 2023年、当時の国防相はイスラエルは7地域で「多方面の戦争状態」にあルトの認識を公表、過去のサイバー攻撃や暗殺でイランの核開発を遅らせたが阻止は不完全。
  • 米国は2018年に核合意離脱、中国はイラン支援、ロシアは軍事協力と、大国間の動きが事態を複雑化。
  • イランの核開発は世界を危機にさらし、イスラエルと西側諸国が行動を起こす時間は限られている。
2024年12月8日アサド政権崩壊

イスラエルによるイランへの奇襲攻撃は、核開発計画を遅らせ、現体制を崩壊させる明確な狙いを持つ。核施設、ミサイル工場、軍の要人や核科学者を標的に、民間人の犠牲を抑えつつイラン国内の反体制運動を促す意図があった。しかし、イスラエルの真の目的は、民族や宗派、経済格差で分裂するイラン社会をさらに分断し、アサド政権崩壊前のシリアのような内戦状態に追い込むことだ。

ネタニヤフの予見とイランの脅威

ネタニヤフ首相は1995年の著書『テロリズムとはこう戦え』でイランの脅威を予見。イスラムテロ組織の反米動向を分析し、2001年の9・11テロを予告するような警告を発していた。同書では、国際テロが支援国家の「安全な避難所」なくして成り立たないと断じ、イランがヒズボラ、ハマス、フーシ派の「抵抗の枢軸」を通じてイスラエルを攻撃してきたと指摘。2024年、イランは4月と10月にドローンやミサイルでイスラエルを直接攻撃。ヒズボラの弱体化やシリアのアサド政権崩壊で「抵抗の枢軸」が揺らぐ中、イラン自身が直接対決に踏み切る危険性が浮上した。


ネタニヤフは、イランが核兵器を手に入れれば、都市全体を人質に取りかねないと警告。ナチズムを例に、ヒトラーが核を持っていたら文明は終焉していたと述べ、民主国家が時間を無駄にしてきたと訴える。「一刻の猶予もない」と力強く断言した。攻撃直後、ネタニヤフはヒズボラへの対応がレバノンやシリアの政権変動を招いたと主張し、イラン国民に「解放」の日が近いと呼びかけた。しかし、反イスラエル感情が根強いイランで体制崩壊は不透明だ。軍上層部の排除で体制を揺さぶる狙いはあるが、後継者が強硬姿勢を強める危険もある。米国なしでは核開発阻止は困難だ。

多方面の戦争とイランの抵抗

2023年、当時のガラント国防相は、ガザ、レバノン、シリア、ヨルダン川西岸、イラク、イエメン、イランの7地域で攻撃を受ける「多方面の戦争状態」を認識。イランと「抵抗の枢軸」による攻撃で、2023年10月のハマス襲撃もイランの支援が背景にあった。イスラエルは2010年のスタックスネットウイルスや2020年の核科学者暗殺で核開発を遅らせたが、完全な阻止はできていない(国際原子力機関報告、2023年)。2022年のイラン国内抗議運動は体制への不満を示したが、治安部隊に鎮圧され、民衆蜂起は遠い。イランの分裂を加速させる戦略は、シリアのような混乱を招く可能性があるが、地域全体の不安定化はイスラエルにも跳ね返るリスクをはらむ。

大国間の駆け引きとイスラエルの孤立


イランをめぐる大国間の動きは事態を複雑にする。米国は2015年のイラン核合意から2018年に離脱し、経済制裁を強化(米国務省、2018年)。2025年6月、イスラエルの攻撃直前に核交渉が予定されたが、イランの報復脅威で米国はイラクから人員を避難させ、交渉は中止(ロイター、2025年6月)。トランプは核開発阻止を求め、軍事攻撃を示唆するが、直接対決は避けたい。一方、中国はイランの最大の石油輸入国として制裁回避を支え、2021年の25年戦略協定で軍事・経済協力を強化(中国外務省、2021年)。2025年3月の北京での三国協議で、核問題の外交解決を主張しつつ米国を非難(新華社、2025年3月)。

ロシアはウクライナ戦争でイランのドローン支援を受け、2025年1月に戦略パートナーシップを締結(ロシア外務省、2025年1月)。イランを政治的に後押しするが、軍事介入には慎重だ。イランは米国の圧力に対抗し、ロシア・中国との関係を深めるが、両国が米国との取引でイランを見限る可能性を警戒する。イスラエル国内では、ネタニヤフへの支持は揺らぎ、反政府デモも起きている。しかし、イランの脅威は世界的な問題だ。

作戦名「アム・ケラヴィ」(雌獅子のような民)は、聖書の民数記に由来し、イスラム革命前のイランのライオンを暗示するとの見方もある。特別非常事態宣言が続く中、作戦は数週間続く可能性がある。米国はイランのウラン濃縮加速を警告(国際原子力機関、2025年)。米国の関与縮小傾向の中、イスラエルは単独で立ち向かう。イランの核開発と地域の混乱は、世界を危機にさらす。イスラエルと米国を中心とする西側諸国が行動を起こす時間は限られている。

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イスラエル空爆の衝撃!イラン核施設壊滅と中東緊迫の行方:日本への警鐘 2025年6月14日

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2025年6月14日土曜日

イスラエル空爆の衝撃!イラン核施設壊滅と中東緊迫の行方:日本への警鐘

まとめ

  • 2025年6月13日、イスラエルがイランのナタンズ核施設を空爆、革命防衛隊司令官や核科学者を殺害。モサドの作戦「ライジング・ライオン」でミサイル施設と防空システムを破壊。
  • イランは100発弱のミサイルで報復するが、イスラエルがほぼ迎撃。78人死亡、320人以上負傷。ウクライナの「スパイダーウェブ(蜘蛛の巣)作戦」とイスラエルの潜入・ドローン戦術が類似。
  • 今回の攻撃は、2023年ガラントの「多方面戦争」認識の延長線上にあると見られる。ハマス奇襲後、敵の能力排除を優先。ネタニヤフはイランの核開発を30年間脅威視。
  • 米国は関与せず、トランプが攻撃を称賛。国連で対立、IAEAは他施設の被害なしと報告。2027年まで中東不安定化が続く見通し。
  • 日本は中東の石油供給リスクに備え、原発再稼働やエネルギー多様化を急ぐとともに、ドローン搬入戦術への防衛策として監視システムや対ドローン技術の強化が必要。

2025年6月13日、イスラエルはイラン中部のナタンズ核施設を空爆し、革命防衛隊のホセイン・サラミ司令官、モハマド・バゲリ参謀総長、核科学者のモハマド・メフディ・テヘランチら要人を葬った。この攻撃は、モサドが長年イランに潜入し、現地協力者から得た情報で成し遂げた作戦「ライジング・ライオン」の成果だ。ニューヨーク・タイムズやアルジャジーラは、イスラエルが誘導ミサイルや自爆型ドローンをイランに持ち込み、テヘラン近郊にドローン基地を設けたと報じた。イランのミサイル発射施設と防空システムは壊滅。イスラエルはモサドの諜報力を誇示し、イラン指導部の報復の気力を挫く狙いを明かした。2020年にもイランで核科学者が暗殺されており、イスラエルの執拗な工作が浮き彫りだ。

攻撃後、イランはテルアビブやエルサレムに100発弱のミサイルを発射したが、イスラエル軍はほぼ全て迎撃し、被害は軽微だった。イラン国営メディアは数百発と誇張し、最高指導者アリ・ハメネイは「報復」を宣言。イラン国連大使は、攻撃で78人が死亡、320人以上が負傷し、テヘランやケルマンシャーの住宅地も被害を受けたと訴えた。国際社会は民間人被害を憂慮している。

イランがイスラエルに向けてミサイル100発以上を発射し、一部はテルアビブに着弾

この攻撃は、ウクライナの「スパイダーウェブ作戦」と似ている。2025年6月1日、ウクライナは117機のドローンをロシア領内に運び、トラックから発射して5つの空軍基地を攻撃。約10機の戦略爆撃機を破壊した。両作戦は、敵国内への潜入、偽装トラックによるドローン発射、精密攻撃で共通する。イスラエル軍ラジオは、ウクライナの手法を取り入れたと報じた。イスラエルはイランの防衛を突破し、敵の戦力を削いだ。

この攻撃は、2023年12月26日、ヨアヴ・ガラント国防相が議会で述べた「多方面での戦争状態」に基づく。2023年10月7日、ハマスが1200人以上を殺害、250人以上を拉致する奇襲を仕掛け、イスラエルはガザ、レバノン、シリア、ヨルダン川西岸、イラク、イエメン、イランの7戦域で脅威に直面。6戦域で反撃を開始し、敵の戦力を潰す戦略に転換した。ガラントは「敵は誰でも標的」と言い切り、ハマスの壊滅と人質奪還を誓った。イランとハマス、ヒズボラ、フーシ派との全面対決が背景にある。

スパイタ〜ウェブ作戦に用いられたドローン ウクライナ保安局

ネタニヤフ首相は30年間、イランの核開発を最大の脅威とみなし、2010年と2012年に攻撃を計画したが、米国の反対で断念。2023年のハマス攻撃後、イスラエルはヒズボラやフーシ派への攻撃を強化。ガザでは約5万5000人が死亡、シリア政権崩壊にも影響を及ぼした。2024年11月、ネタニヤフは今回の作戦を指示。モサド元幹部は、イランにドローン基地を事前に設けたと明かした。

米国は関与せず、トランプ大統領は攻撃を称賛しつつ、イランとの交渉の余地を残した。国連安保理ではイランが米国を非難、イスラエルは「国家存続のための行動」と反論。国際原子力機関は、ナタンズ以外の核施設に被害がないと報告。専門家は、攻撃がイランの核開発を遅らせても、体制危機が核兵器開発を加速させる恐れを指摘。イランの軍事力と代理勢力の衰退は報復を制限している。

イスラエル・ネタ二アフ首相

戦争の行方を占うと、イスラエルの目標である核開発遅延や代理勢力の無力化が進んでも、イランとの緊張は2026年以降も続く。ガラントは2024年に「戦争は長引く」と警告。専門家はイランの核兵器完成を2~3年遅らせられると見る。外交的合意やイラン体制の変革がなければ終結は難しい。2024年11月、国際刑事裁判所がガラントとネタニヤフに逮捕状を発行。ガラントは解任され、イスラエル・カッツが国防相に就任。2027年までは軍事衝突や諜報戦が断続するだろう。イランが核開発を加速すれば、大規模作戦が再び起きる。

中東の不安定は2027年まで続くだろう。その後も両者の睨み合いは続く。日本はエネルギー安全保障と防衛を見直すべきだ。中東からの石油・ガス供給が不安定化する中、再生可能エネルギーへの過度な期待は危険だ。原発再稼働や石炭、LNGの活用でエネルギー多様化を急ぐ必要がある。さらに、スパイダーウェブ作戦やライジング・ライオンに見るドローン潜入戦術への備えが急務だ。敵国が日本にドローンを密輸したり、日本国内で製造して、重要施設を攻撃するリスクに備え、監視システムや対ドローン技術、物流網の点検を進めるべきだ。現実的なエネルギー政策と防衛策は、経済と安全保障を守る鍵だ。

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2025年6月13日金曜日

中国の異常接近:日本の対潜水艦戦能力の圧倒的強さを封じようとする試みか

まとめ
  • 中国軍のJ15戦闘機が、海上自衛隊のP3C哨戒機に6月6日と8日、太平洋上で異常接近し、衝突リスクを伴う挑発的な飛行を行った。両機の最短距離は45メートルで、国際航空安全基準を下回る危険な状況だった。
  • 日本は国際法を遵守し、冷静に対応。防衛省は中国に厳重抗議し、再発防止を求めた。中国外務省は日本の偵察がリスクの原因と反論したが、国際法を無視する中国の行動は信頼醸成を損なう挑発だ。
  • 現代海戦では対潜水艦戦(ASW)が鍵であり、日本はP-3C、P-1哨戒機や護衛艦、潜水艦で世界最高水準のASW能力を持つ。2021年のマラバール演習でその実力を示した。
  • 中国のASW能力、特に敵潜水艦の探知力は日本に大きく劣る。2020年の米国防総省報告書や2018年の演習失敗、2016年の無人潜水艇拿捕事件がその限界を露呈する。
  • 中国はASWの劣勢を補うため、J15による牽制や対艦弾道ミサイルに頼る。今回の異常接近は日本のASW能力を封じる狙いだが、中国の挑発は対話を拒否する行為であり、緊張緩和には中国の行動変容が必須。
中国軍の空母「山東」を太平洋上で監視していた海上自衛隊のP3C哨戒機に、中国軍のJ15戦闘機が6月6日と8日、2日間にわたり異常接近を繰り返した。衝突の危険を伴う挑発だ。防衛省が公開した8日の映像には、J15の翼下に白いミサイルのような物体が映っている。赤外線誘導の空対空ミサイルの可能性があり、胴体下部にも別のミサイルが搭載されているかもしれない。模擬弾か実弾かは不明だが、ミサイルと推定される。J15はP3Cの前方約900メートルを高度差なく横切り、ジェットエンジンの乱気流がP3Cのエンジンに影響を与えるリスクを生んだ。最悪の場合、エンジンが停止する恐れもある。両機の距離はわずか45メートル。国際的な航空安全基準を大きく下回る危険な状況だ。


日本の冷静な対応と中国の反論

P3Cは監視任務では攻撃用の武装を搭載しない。情報収集に特化したセンサーやカメラで運用される。対潜水艦戦(ASW)や対艦攻撃能力を持ち、魚雷や対艦ミサイルを搭載可能だが、今回は武装の報告はない。国際法を遵守し、冷静に対応した。対して、J15は機動性の高い戦闘機だ。空自のパイロットは、意思疎通がない状況で高度差なく接近すれば、衝突事故の確率が極めて高いと警告する。複数回の接近は中国軍の組織的な指示による可能性が高い。防衛省は11日、「山東」の艦載機が7、8日にP3Cに異常接近したと発表。日本政府は深刻な懸念を表明し、再発防止を申し入れた。浜田靖一防衛相は「極めて遺憾」と述べ、外交ルートで中国に厳重抗議した。2014年に中国のSu-27が自衛隊機に約30メートルまで接近した事案以来の異常接近だ。

P3C

中国外務省の林剣報道官は12日の記者会見で、「日本の艦艇や軍用機が中国の正常な軍事活動に接近して偵察することがリスクの根本原因」と反論した。日本に「危険行為」をやめるよう求め、中国軍の活動は「国際法と国際慣例に合致している」と主張した。両国の国防部門が意思疎通を保っているとも述べた。しかし、この発言は国際法を無視し、衝突リスクを高める中国の行動と矛盾する。信頼醸成を自ら踏みにじる挑発だ。

現代海戦の鍵:対潜水艦戦

現代の海戦では、対潜水艦戦(ASW)が主力を担う。潜水艦はステルス性が高く、対艦ミサイルや魚雷で空母や艦隊を脅かす。ASWに優れた軍隊が海洋の覇権を握る。日本は世界最高水準のASW能力を持つ。P-3CやP-1哨戒機、SH-60K対潜ヘリ、ソナー搭載の護衛艦、静粛性に優れるおやしお型やそうりゅう型潜水艦を運用する。P-1は磁気探知装置、高性能ソノブイ、合成開口レーダーを備え、潜水艦探知に優れる。2021年のマラバール演習で、米国やインドと高度なASW戦術を披露した。日本のASW網は、米国の海底音響監視システムや無人機と統合され、太平洋での支配力を強化している。

海洋観測船「あかし」の進水式

2025年5月29日には、16年ぶりに海洋観測艦「あかし」が進水したばかりである。「あかし」は海洋観測任務のため、旋回式推進装置とバウスラスターを装備し、高い操縦性能を確保。基本的な仕様は、2010年3月に三井造船玉野艦船工場(現:三菱重工マリタイムシステムズ)で竣工した「しょうなん」に準じており、「ポッド式推進システム」が搭載されているとみられる。水中機器の敷設・揚収機能を強化するとともに、艦上における海洋環境データ処理能力の向上を図りました。一方で官給品や民生品の積極的に活用することにより建造費やLCC(ライフサイクルコスト)を低減している。

潜水艦を支えるために、極めて高性能な海洋観測機器を搭載する海上自衛隊の海洋観測艦。逆に言うと海洋観測艦の性能がわかってしまうと、日本の潜水艦の活動限界についてもわかってしまう可能性もある。

ゆえに、海洋観測艦は潜水艦以上の機密保持性が求められる。実際、護衛艦や潜水艦は一般公開されることがある一方、海洋観測艦の内部が公開されることはまず二位。海洋観測艦は、海上自衛隊で潜水艦以上に秘匿性の高い艦と言える。

ASWは、単に兵器の性能、探索能力などで向上できるものではない、ハード・ソフト、マンパワーなどを含めた国家による総合力であり、短期間に養えるものではないし、ましてや技術やノウハウを剽窃したからといってすぐに高められるものではない。

中国のASWの遅れと挑発の狙い

中国はASW能力、特に敵潜水艦の探知で日本に大きく劣る。Y-8Q哨戒機は約20機で、日本のP-3CやP-1に比べ数が少なく、センサー性能も劣る。2020年の米国防総省の報告書は、中国のASW能力を「地域的な作戦に限定され、遠洋での潜水艦追跡は困難」と評価する。054A型フリゲートや052D型駆逐艦のソナーは、日本の護衛艦のソナーに比べ精度が劣る。2018年の南シナ海の演習で、模擬潜水艦の探知に失敗した。2016年、米国の無人潜水艇を南シナ海で拿捕した事件は、中国の対潜哨戒能力の限界を露呈した。2023年の演習でも、空母戦闘群のASW防御が不十分だった。いかに優れた兵器を持ったとしても、発見できない敵を効果的に攻撃することはできない。

中国のY-8Q哨戒機

中国はASWの劣勢を補うため、対艦弾道ミサイルやJ-15による牽制に頼る。今回の異常接近は、P3Cの監視を妨害し、日本のASW能力を封じる狙いがあったと見るのが妥当だろう。特にP3Cに、「山東」を含む空母打撃群の脆弱性を発見されたくないという考えがあったものと見られる。中国は日米などの訓練において監視することもあり、これに対して、日米が中国の航空機や艦艇に対して、今回のような妨害行為をしたことはなく、今回の事案は中国側の身勝手な行動と言える。2007年に中国の039型潜水艦が米空母近くに浮上した事例があるが、これは静粛性の低さから見ると偶然もしくは米軍に発見され追い詰められた可能性すらある。中国は新型096型潜水艦を開発中だが、2020年代半ばでは日本のASW網に対抗できない。

日本のASW能力は中国の海洋覇権封じ込めの鍵だ。中国の今回の挑発事案は、短期的な牽制にすぎない。日中の信頼醸成は重要だが、中国は今回の行動で対話を拒否した。国際法を無視し、信頼を踏みにじる行為は、中国自身の責任だ。日本のASW能力を脅威とみなしたこの事案は、中国が対話ではなく挑発を選んだことを示す。ASWに優れる日本は戦略的優位を保つ。緊張緩和は必要だが、それは中国が挑発をやめることから始まる。

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2025年6月12日木曜日

『WiLL』と『Hanada』の成功の裏側:朝日新聞批判から日本保守党批判への転換と商業メディアの真実

まとめ
  • 『WiLL』と『Hanada』は朝日新聞批判で部数を伸ばしたが、安倍政権終焉やネットメディアの台頭でマンネリ化し、限界を迎えた。
  • 2024年、両誌は日本保守党批判に転じ、飯山陽氏の記事やYouTubeでの対立事件を通じて話題性を確保、商業的成功を収めた。
  • 日本保守党がLGBT理解増進法廃案に動いていないとの批判は、党の公式政策や島田洋一議員の国会質疑から見て不正確な可能性。
  • 両誌は売上至上主義で話題性を追求し、朝日や保守党批判は商業戦略の一環。梶原麻衣子の新書で編集部の葛藤が描かれる。
  • 雑誌は商業媒体であり、読者は事実と意見を分け、複数の情報源を参照して批判的に向き合うべき。これは、すべての情報媒体と向き合う際の教訓となるだろう。
『WiLL』や『Hanada』といった保守系雑誌は、大手メディアへの対抗意識と週刊誌のようなスピード感を武器に、読者の心を掴み、部数を伸ばしてきた。特に、朝日新聞をターゲットにした批判記事は、保守派読者の不満を代弁し、商業的成功を収めた。しかし、この「朝日新聞叩き」の戦略は限界を迎え、新たな話題性として日本保守党への批判が浮上した。この流れは、雑誌が売上を優先する商業メディアである本質を浮き彫りにする。読者は、こうした雑誌を批判的に捉え、事実と意見を分けて向き合う必要がある。


2000年代中盤、『WiLL』は朝日新聞の慰安婦報道や原発報道を批判する特集で大きな注目を集め、ピーク時には公称13万6000部の発行部数を記録した。みんかぶマガジンの記事によると、この成功は、保守派読者の大手メディアへの不信感を巧みに捉えた結果だった。梶原麻衣子さんの新書『「“右翼”雑誌」の舞台裏』では、編集部が朝日新聞批判を優先し、読者から「日本の名誉を守る雑誌」との熱い支持を得ていたことが描かれている。2014年の朝日新聞の慰安婦報道検証記事を機に、両誌は「反日的」と朝日を攻撃する企画を連発し、部数を押し上げた。

花田紀凱編集長の週刊誌出身の経験が、この戦略を支えた。朝日の社説や記事を名指しで批判する特集は、読者のメディア不信を刺激し、商業的成功を確実なものにした。しかし、2022年の安倍元首相の死去やネットメディアの台頭により、「朝日新聞叩き」の鮮度が薄れ、読者の「飽き」が生じ始めた。2025年1月のデイリー新潮の記事では、保守系雑誌の従来の戦略が限界に達しつつあると指摘されている。梶原さんの新書でも、売上至上主義の中で扇情的な内容や陰謀論が採用される葛藤が描かれ、朝日批判の繰り返しがマンネリ化のリスクを孕んでいたことが示唆されている。雑誌は商業媒体であり、読者の関心を維持するためには新たな話題が必要だった。

花田紀凱編集長

そこで注目されたのが、日本保守党への批判だ。文春オンラインの記事(2024年10月)によると、両誌は2023年の日本保守党結党当初は支持する姿勢を見せていたが、2024年の衆院補選での党の動向や、党首・百田尚樹氏と事務総長・有本香氏の言動に疑問を抱き、批判に転じた。たとえば、飯山陽氏が『Hanada』で日本保守党のLGBT理解増進法への対応や政策の曖昧さを批判する記事を寄稿し、話題を呼んだ。2024年、飯山氏は衆院補選で日本保守党の候補として出馬したが落選し、党との関係を断絶。その後、YouTubeや『Hanada』で党批判を展開し、百田氏らの言動を問題視した。2024年後半の『Hanada』YouTube生放送では、ゲストが日本保守党を批判する中、百田氏と有本氏が電話で番組に抗議し、編集部との対立が表面化した。この事件は、両誌と日本保守党の緊張関係を象徴し、読者の間で議論を巻き起こした。両誌は「言論の自由」を掲げ、こうした圧力行為を批判の正当化に利用したが、その背景には商業的動機があった。2024年の関連号は書店で品薄となり、批判記事が商業的成功を収めた証拠となった。

日本保守党所属の島田洋一議員

しかし、飯山氏による「日本保守党がLGBT理解増進法廃案に動いていない」や『WiLL』の政策の曖昧さを問題視する批判は、必ずしも事実と一致しない。産経ニュース(2023年10月17日)によると、百田氏は結党会見で「LGBT法に怒り結党した」と述べ、党の重点政策としてLGBT理解増進法への反対を明確に掲げていた。日本保守党の公式サイト(2024年10月時点)でも、伝統的家族観の重視を政策に明記し、法案の問題点を追及する姿勢を示している。2024年、日本保守党所属の島田洋一議員が国会でLGBT理解増進法に関する質疑を行い、女性スペースの保全を法務大臣に約束させるなど、具体的な行動を起こしている。これらの事実から、両誌の批判が党の活動実態を十分に反映していない可能性が浮かび上がる。

雑誌は、所詮商業ベースの情報媒体だ。『WiLL』や『Hanada』の朝日新聞批判や日本保守党批判は、読者の関心を引き、部数を伸ばすための戦略に他ならない。梶原さんの新書では、売上至上主義が編集方針を歪め、倫理的葛藤を生んだことが赤裸々に綴られている。文春オンラインの記事でも、両誌が日本保守党批判を通じて新たな話題性を追求したことが示唆されており、売上を優先する姿勢が明確だ。読者は、こうした雑誌を純粋な「真実の代弁者」と見なすのではなく、売上を優先する商業媒体として捉え、複数の情報源を参照しながら批判的に向き合うべきだ。

日本保守党をYouTubeで批判する飯山陽氏

朝日新聞批判から日本保守党批判への移行は、読者の関心を維持するための必然だったが、保守派内部の分裂を深めるリスクも孕む。特に、事実と異なる批判は読者の信頼を損ねる危険がある。文春オンラインの記事が指摘するように、この内紛は保守系メディアの信頼性を損なう可能性もある。結局、雑誌との付き合い方には、冷静な視点が欠かせない。『WiLL』や『Hanada』が提供する情報は、話題性を追求する商業媒体の一面に過ぎない。読者は、複数の情報源を参照し、事実と意見を分けて考える姿勢が求められる。日本保守党批判をめぐる議論は、言論の自由や保守派の分裂を映し出すが、雑誌の動機は売上にあることを忘れてはならない。この視点は、保守系メディアに限らず、すべての情報媒体と向き合う際の教訓となるだろう。

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2025年6月11日水曜日

安倍昭恵の電撃外交と安倍の魂復活:保守派の「千載一遇の大チャンス」は来るか?

まとめ
  • 安倍昭恵氏の電撃外交:2025年5月29日、昭恵氏が政府の関与なしにプーチン大統領と面会。ロシアの厚遇と国営テレビの放映で注目を集めたが、日本政府は困惑し、公式外交とのズレが議論を呼ぶ。
  • 麻生太郎の戦略:麻生氏が昭恵氏の国際活動を後押しし、米国との同盟を軸にFOIPを推進。2025年5月、FOIP戦略本部を設置し、トランプ政権や保守勢力との連携を強化。
  • チベット問題への関与:2025年6月3日、昭恵氏が世界チベット議員会議に出席し、中国の漢化政策に懸念を示す。安倍元首相の理念を継ぎ、中国へのメッセージを発信。
  • 清和会の魂と保守派のチャンス:2024年に解散した旧清和会の復活を目指し、高市早苗氏や麻生氏らが保守派を結集。石破首相の弱い立場と「千載一遇の大チャンス」が清和会の魂を甦らせる可能性
  • 世論の賛否と課題:昭恵氏の政府を介さない行動は、安倍理念の継承と評価される一方、米欧との同盟や日中関係に矛盾するとの批判がXで交錯。清和会再結集には政府との調整が必要。
プーチンとの面会が巻き起こした波紋

安倍昭恵氏(63)が2025年5月29日、ロシアでプーチン大統領と電撃的に面会したニュースは、日本中を驚かせた。政府や外務省の関与なしに実現したこの会談は、詳細が謎に包まれ、波紋を広げた。プーチン氏は昭恵氏を厚遇し、大統領公用車でボリショイ劇場まで送る異例の対応を見せた。ロシア国営テレビは、プーチン氏が安倍元首相の功績を称え、昭恵氏が涙する場面を放映した。だが、日本政府は事態を全く把握しておらず、官邸も外務省も慌てて情報を集めた。林芳正官房長官は「政府としてコメントする立場にない」と述べ、困惑を隠せなかった。

麻生太郎の戦略と外交の裏舞台
昭恵夫人とプーチン会談に同席した薗浦健太郎元衆院議員(左)

この面会の裏には、麻生太郎・自民党最高顧問(84)の存在がある。麻生氏の側近、薗浦健太郎元衆院議員が同席し、調整役を務めた。薗浦氏は2023年、昭恵氏がトランプ夫妻と面会した際も立ち会った人物だ。麻生氏はトランプ前大統領との強いパイプを持ち、昭恵氏の国際活動を支えている。プーチン氏が安倍元首相の死後、昭恵氏に弔意を示していた事実を知った麻生氏が、今回の訪ロを後押ししたとみられる。

麻生氏の外交戦略は明快だ。米国との同盟を軸に、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を推進し、中国やロシアと現実的に渡り合う。2025年5月、自民党は麻生氏を本部長とするFOIP戦略本部を設置。トランプ政権や保守勢力との連携を強化し、中国の拡大を牽制する。麻生氏周辺では、昭恵氏を駐米大使に推す声も上がった。石破茂首相が対米外交で独自のルートを持たない中、2025年1月20日に第47代米大統領に就任したトランプ政権との交渉力を高める狙いだ。実現性は低いが、安倍元首相の遺産と麻生氏の影響力が日本外交に色濃く残る。

チベット問題と中国へのメッセージ
「世界チベット議員会議」に出席した安倍昭恵夫人 最前列左から四人目

昭恵氏は2025年6月3日、東京の「世界チベット議員会議」に出席。「チベットの文化と自然が守られるように」と述べ、安倍元首相の姿勢を引き継ぎ、中国の漢化政策に懸念を示した(共同通信、2025年6月4日)。チベット問題は、中国による支配とチベット人の自治運動に端を発する。1949年以降、中国はチベットを支配。1959年のチベット動乱でダライ・ラマ14世がインドに亡命し、漢化政策でチベット人の文化が抑圧される。国際社会はこれを人権問題として注視するが、解決は遠い。昭恵氏の参加は、中国への強いメッセージとなった。彼女は2024年、女性のエンパワーメントをテーマにした国際会議で講演し、ジェンダー平等を訴えた。東京の飲食店「UZU」を通じ、地方創生や日本文化の普及にも取り組む。これらは安倍元首相の遺志を継ぎ、彼女自身の信念を反映し、国内外で評価される(朝日新聞、2024年10月15日)。

安倍の魂復活と保守派の「千載一遇の大チャンス」
自民党の公式組織「自由で開かれたインド太平洋戦略(FOIP)本部」の会合

世論では、昭恵氏の政府を介さない行動や中国への姿勢に賛否両論がある。Xでは、プーチン氏との面会が米欧との同盟を重視する日本の立場と矛盾するとの声が上がる。チベット問題への関与も、日中関係の緊張を高めるとの懸念がある。石破首相は小泉進次郎農相のコメ対策で支持率を回復し、2025年6月のG7サミットでトランプ大統領との関税交渉が成功すれば、衆参同日選に突き進む。以前このブログても述べたように、自民党は野党の候補者不足や立憲民主党の調整失敗を背景に、元落選者や不出馬者を再起用し、選挙戦を優位に進められる。2024年にスキャンダルで解散した旧清和会は、59人のメンバーのうち20人しか残らず、39人が落選または不出馬となったが、ベテラン再起用の強みは大きい。

高市早苗氏が主導する自民党の公式組織「自由で開かれたインド太平洋戦略(FOIP)本部」が2025年3月に再始動し、麻生氏や旧安倍派の西村康稔氏、萩生田光一氏ら保守派が結集。石破首相は保守派の復活を抑える力を持たない。この「千載一遇の大チャンス」—千年に一度の貴重な機会—が訪れれば、保守派が団結し、清和会(安倍)の魂が自民党内で甦る可能性が高い。昭恵氏のプーチン氏との面会やチベット会議への参加は、安倍元首相の外交理念—日ロ平和条約への意欲や中国牽制—を体現し、保守派の心を掴む。麻生氏の後押しは、トランプ政権とのパイプ強化やFOIP本部を通じた保守の結集を促す。だが、彼女の政府を介さない行動は、石破首相や穏健派との軋轢を生む。Xでは、彼女の行動が清和会の再結集を刺激する「チャンス」と見る声と、外交の混乱を招くとの懸念が交錯する。安倍の魂を甦らせるには、政府との調整と強いリーダーシップが欠かせない。

2025年、トランプ政権が始動する中、麻生氏と昭恵氏の動向は日本の対米・対ロ・対中外交を左右する。彼女の行動は、安倍の魂を呼び覚ます火種となるか、それとも外交の波乱を招くか。日本の未来を占う鍵が、ここにある。

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2025年6月10日火曜日

NHKの偏向報道を暴く!トランプ政権の「法と秩序」が守る住民の安全

まとめ
  • NHKの偏向報道:NHKはトランプ政権のロサンゼルス暴動対応や不法滞在者取り締まりを「移民への攻撃」と誤って報じ、合法移民と不法入国者を混同させ、事実を歪曲している。
  • 暴動対応は住民保護:2025年6月6日のロサンゼルス暴動で、トランプ政権は州兵2000人を動員し、公共の安全を守る当然の措置を取った。
  • 不法入国は犯罪:不法入国は連邦法違反(8 U.S.C. § 1325)であり、ICEの取り締まりは強姦、殺人、テロ行為など重大犯罪に関与した不法滞在者に絞られる。
  • NHKへの批判:Xや産経新聞はNHKの「住民」から「移民」への表現変更を偏向と非難。CBSやNBCは暴動の暴力性を報じるが、NHKはバランスを欠く。
  • メディアと視聴者の責任:NHKは事実を正確に伝えるべき。トランプ政権の政策は治安維持が目的であり、視聴者は報道を疑い、一次情報を確認する必要がある。
NHKの報道が真実をねじ曲げている。2025年6月9日の放送で、トランプ政権のロサンゼルス暴動対応や不法滞在者への取り締まりを「移民への攻撃」と報じた。これは明らかな誤りだ。取り締まりの対象は「移民」全般ではなく、犯罪に関与した不法滞在者や不法入国者に限定される。不法入国そのものが法律違反であり、犯罪行為だ。NHKの報道は視聴者を惑わし、トランプ政権を不当に貶める。本記事は、確かな事実と重大犯罪の具体例を基にその偏向を暴く。


暴動対応は住民を守る当然の行動だ
2025年6月6日、ロサンゼルスで暴動が起きた。移民・関税執行局(ICE)が不法滞在者45人を逮捕したことが発端だ。ICEは、米国国土安全保障省(DHS)傘下の機関で、移民法違反や不法入国の取り締まりを任務とする。抗議活動は暴徒と化し、高速道路101号線を封鎖し、警察車両に投石し、放火を繰り返した。
 
トランプ大統領は6月7日、約2000人の州兵を動員。必要ならキャンプ・ペンドルトンから海兵隊700人を追加投入する方針を示した(出典:CBS News, 2025年6月7日)。これは公共の安全を守る当然の措置だ。1992年のロサンゼルス暴動でも州兵が動員された歴史がある。

NHKの報道

NHKはこれを「住民への攻撃」と報じ、後に「移民への攻撃」と言い換えた。暴動で市民が危険にさらされているのに、政権の対応を攻撃と呼ぶのは事実を180度ひっくり返す行為だ。カリフォルニア州知事ギャビン・ニューサムやロサンゼルス市長カレン・バスは州兵動員に反対したが、連邦政府は治安回復を優先した。それこそ住民を守る道である。

取り締まりは不法入国という犯罪に絞られる
NHKの「移民」という言葉遣いは問題だ。移民という言葉は合法な滞在者を連想させるが、トランプ政権の取り締まりは不法滞在者や不法入国者に絞られる。不法入国は連邦法(8 U.S.C. § 1325)で禁じられた犯罪行為であり、初犯でも6カ月の懲役、2回目以降は2年の懲役が科される可能性がある。
 
ICEの取り締まりは、この法律違反を前提に、さらなる犯罪に関与した者を優先する。例えば、2025年6月、ICEは強姦、児童ポルノ所持、わいせつ物頒布の罪で起訴された不法滞在者を逮捕。過去に暴行や誘拐の逮捕歴もあった(出典:ICE公式発表, 2025年6月5日)。

ICEの取り締まり

2025年5月、無免許運転で時速145キロで走行し、Kaitlyn Weaverさんを死亡させた不法滞在者が逮捕された(出典:Fox News, 2025年5月30日)。2025年6月、ボルダーでユダヤ系アメリカ人を焼き殺した不法滞在者が摘発された(出典:Fox News, 2025年6月3日)。
 
2025年1月、トランプ政権は「レイケン・ライリー法」を施行。窃盗や暴力犯罪で逮捕された不法滞在者を裁判まで拘束する法律だ。これは2024年にジョージア州で不法滞在者が女子大生レイケン・ライリーを殺害した事件を受けたものだ(出典:NBC News, 2024年2月22日)。不法入国自体が犯罪である以上、こうした取り締まりは法の執行に他ならない。NHKが「移民への攻撃」と報じるのは、合法移民と不法入国者を混同させ、政策の本質を隠す。

真実はNHKの枠を超える
NHKの報道姿勢に批判が集まる。Xでは、NHKが「住民」から「移民」へと表現を変えたことを「偏向の証拠」と非難する声が上がる(出典:X, 2025年6月9日)。産経新聞の古森義久氏は、NHKの報道を「トランプ叩き」と断じた(出典:産経新聞, 2025年6月10日)。
CBSやNBCは暴動の暴力性や警察への襲撃を詳細に報じるが(出典:CBS News, 2025年6月8日)、NHKは暴動の背景を薄め、「移民」を強調する。その意図はあまりにも明らかだ。


メディアの役目は事実を正確に伝えることだ。NHKの報道はトランプ政権の政策を誇張し、視聴者を誤解に導く。テキサス州のデータ(2012~2018年)によると、不法滞在者の全体の重罪逮捕率は一般市民より低い。暴力犯罪や薬物犯罪の逮捕率は市民の半分以下、財産犯罪は4分の1以下だ(出典:National Institute of Justice, 2024年9月12日)。
 
だが、殺人や性的暴行では異なる傾向がある。2012年のデータでは、不法滞在者の殺人率は市民より30%高く(3.9対3.0 per 100,000人)、性的暴行の有罪率は市民の約2倍だ(出典:Center for Immigration Studies, 2022年10月11日)。不法入国そのものが犯罪であることを踏まえ、トランプ政権はこうした重大犯罪を重視し、治安維持を最優先する。
 
NHKがこれを「移民への攻撃」と報じるのは事実の歪曲だ。NHKは言葉を慎重に使い、事実を正しく伝える責任を果たすべきだ。視聴者も報道を鵜呑みにせず、一次情報を確認する必要がある。トランプ政権の暴動対応は住民を守る当然の行動であり、不法滞在者への取り締まりは法を犯した者を狙ったものだ。真実はNHKの枠を超えたところにある。

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2025年6月9日月曜日

中国の野望を打ち砕け!南鳥島を巡る資源と覇権の攻防

まとめ
  • 中国海軍の挑発: 2025年6月7日、中国海軍の空母「遼寧」など4隻が南鳥島周辺の日本EEZ内を航行、8日にEEZ外で戦闘機・ヘリコプターの発着を確認。防衛省は初の事案として警戒監視を強化。
  • 南鳥島の資源: 日本最東端の南鳥島のEEZに、レアアース・レアメタルを含むマンガンノジュール約2億3000万トン(コバルト75年分、ニッケル11年分)が存在。2026年以降の商用化を目指す。
  • 中国の戦略: 中国は「第2列島線」を防衛ラインとし、米軍牽制と遠洋作戦能力強化を狙う。EEZ侵入は資源調査や牽制の意図が疑われる。
  • 深海底採掘のルール: 中国は国際海底機構(ISA)で深海採掘のルールを主導。2023年、21カ国が一時停止を支持する中、中国は資源・軍事・外交的影響力拡大を推進。
  • 日米の対応: インド太平洋戦略に基づき、日本は南鳥島の資源を経済安全保障の柱とし、米国はUNCLOS批准や環境保護で中国を牽制。南シナ海の前例を教訓に、深海の中国支配を阻止。
中国の挑発:南鳥島EEZへの侵入
中国空母「遼寧」

2025年6月8日、防衛省統合幕僚監部は中国海軍の動向を公表した。空母「遼寧」を含む4隻が、6月7日、小笠原諸島の南鳥島南西約300キロの日本の排他的経済水域(EEZ)内を航行したのだ。翌8日、EEZ外の公海上で「遼寧」から戦闘機やヘリコプターの発着が確認された。防衛省によると、中国空母がこの海域に進出したのは初めてだ。中国は小笠原からグアムに至る「第2列島線」を防衛ラインとし、米軍の太平洋進出を封じる戦略を進める。空母の運用能力を磨き、遠洋での作戦力を強化する狙いは明白だ。海上自衛隊の護衛艦が監視にあたり、危険な行動はなかったが、防衛省は警戒を続ける。この動きは、日米の「インド太平洋戦略」が掲げる「自由で開かれたインド太平洋」への挑戦である。

南鳥島の秘宝:資源大国への可能性

南鳥島沖の海底に眠るマンガンのジュール

南鳥島は日本最南端の島だ。このEEZには膨大な宝が眠る。東京大学と日本財団の調査で、レアアースやレアメタルを含むマンガンノジュール約2億3000万トンが確認された。コバルトは国内消費の75年分、ニッケルは11年分。電気自動車の電池に欠かせない資源だ。これらは日本を「資源小国」から「資源大国」へと変える可能性を秘める。来年から実証試験が始まり、2026年以降の商用化が視野に入る。中国のEEZ侵入は、資源調査や牽制の意図を疑わせる。国際法上、EEZでの軍事行動は議論の的だ。日本は、この宝を守り抜く覚悟が必要だ。

中国の深海支配:国際ルールへの挑戦

深海に翻る中国旗 AI生成画像

中国は太平洋の公海で、深海底採掘のルールを握ろうと動く。国際海底機構(ISA)や国連海洋法条約(UNCLOS)の場で主導権を確保。深海底を「戦略的フロンティア」と位置づけ、資源確保、軍事技術、外交的影響力の拡大を狙う。2023年のISA会合では、採掘ライセンスや技術規則を自国に有利に進め、議論を主導した。南シナ海で人工島を築き、環境を破壊した中国には前科がある。技術取得には他国からの不正な移転が指摘される。米国はISA未加盟で発言力が弱い。日米は環境保護を盾に、中国の動きを牽制しなければならない。深海が「第二の南シナ海」となる危機が迫る。

日本とインド太平洋地域での使命:未来を切り開く

自民党「自由で開かれたインド太平洋戦略本部」の会合

日米の「インド太平洋戦略」は、海洋の自由とルールに基づく秩序を掲げる。中国の南鳥島での挑発や深海底での動きは、この戦略への直接の挑戦だ。南シナ海の軍事拠点化は、航行の自由を脅かした前例である。深海資源の支配が次の戦場となる恐れがある。日本は南鳥島の資源を経済安全保障の柱とし、ISAで透明なルール作りを主導する。米国はUNCLOS批准で発言力を高め、日本は都市鉱山技術で深海依存を減らす。2023年、21カ国が深海採掘の一時停止を支持。環境保護のうねりは中国を抑える力だ。南シナ海の過ちを繰り返さず、深海を中国の独壇場にしない。日本は団結と覚悟で、資源大国への道を切り開くのだ。

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2025年6月8日日曜日

衆参同日選で激動!石破政権の終焉と保守再編の未来

まとめ

  • 国会は会期末6月22日に向けて与野党が不信任決議案で対立し、11日の党首討論で石破首相と野田代表が激突するが、野田は慎重で、枝野元代表は不信任を「危険」と批判。
  • 石破首相はコメ対策で支持率を回復し、G7サミットでの関税交渉成功で衆参同日選勝利を狙うが、失敗すれば退陣危機、自民は落選者再起用で優位に立つ。
  • 衆参同日選での自民勝利で党は勢いを取り戻すが、石破政権は保守冷遇やリベラル左翼的政策で批判を浴び、高市早苗や清和会の台頭が予想される。
  • 衆参同時選挙の勝利と清和会の支援、石破政権支持率低下が揃えば石破退陣と総裁選が動き、旧清和会の復活で保守再編が進むが、野党の勝機は極めて低い。
  • 現状では未だ遠く見えるものの、歴史の転換点が目前に迫り、石破時代は終わるが、高市や清和会の影響力が強まり、野党は新戦略を迫られる。
与野党の緊迫した攻防


国会は会期末6月22日に追い詰められ、与野党が内閣不信任決議案を巡り激しい火花を散らす。野党が一歩踏み出せば、石破茂首相は即座に衆院を解散し、正々堂々と立ち向かう構えだ。夏の参院選(7月20日投開票予定)と衆参同日選を見据えた戦いが始まり、11日の党首討論で石破と立憲民主党の野田佳彦代表が激突する。この一戦が運命を分ける!不信任案提出には51人の賛同が必要で、立民がその力を持つ。例えば、昨年10月の衆院選では立民が110議席から96議席に減らしたものの、野党連携で勢いを保ち、与党の過半数喪失を誘った。与党は過半数を失い、野党が団結すれば勝機が生まれる。

しかし、野田は維新や国民民主党の共同提案を求める声に対し、「適時適切に判断」と曖昧に逃げる。玉木国民民主党代表も立民と相談し、タイミングを計る。立民内では解散を恐れる声が渦巻くが、不信任を避ければ「弱腰」と嘲笑われる。野田は世論を注視し、次の手を模索する。7日、宮崎市で枝野幸男元代表が「不信任案は危険」と警告を発した。石破の解散で日米関税交渉が止まり、「国益に打撃を与える」と断言したのは、昨年末の関税交渉が経済界から注目された経緯を踏まえてだ。衆参同日選になれば「国会も内閣も機能しなくなる」と喝破し、野田が国益を選ぶと信じる。他党の圧力に「野田を首相に?」と皮肉り、「不信任を迫るのは無責任」と一蹴した。


石破首相の戦略と自民の優位性

石破首相は小泉進次郎農相のコメ対策で支持率を立て直し、解散へ突き進む。6月15~17日のG7サミットでトランプ米大統領との関税交渉が成功すれば、衆参同日選での勝利が確信に変わる。だが、世論が冷たければ退陣の嵐が吹き荒れる。だがこの衆参同時選挙で自民が勝利する可能性は高い。野党は候補者不足に喘ぎ、立憲民主党は調整に失敗。自民は前回衆院選落選者や不出馬者を擁立し、比例枠や地域枠で戦線を固める。旧清和会はスキャンダルで2024年初頭に解散し、メンバーの多くが無所属で出馬したが、7人が落選した(例: 元文部科学相の下村博文氏)。全体の旧清和会メンバー(59人)のうち、選挙後に残ったのは20人(自民公認を含む)で、残りの39人は落選または不出馬と推定される。落選、不出馬した元政治家の再起用は新人にはるかに勝り、例えば2021年の衆院選で復活したベテラン議員が地元で圧勝した例がある。


高市早苗氏主導の「自由で開かれたインド太平洋戦略本部」が2025年3月に再始動。麻生太郎氏や旧安倍派の西村康稔氏、萩生田光一氏ら「非石破」「非岸田」の保守派が集結し、党内権力争いと安倍元首相のビジョン継承を目指す現在、石破には、元清和会議員の復活を拒む余力はない。保守派を足蹴にしたツケが回ってきた格好だ。この『千載一遇の大チャンス』が来れば、保守派が団結し、自民党内で清和会(安倍)の魂が甦る可能性は高い。選択的夫婦別姓や企業献金の審議は10日に控えるが、与野党の妥協は見えず、結論は遠い。参院では13日に年金改革法案が通る見込みだが、合意は依然として難航中だ。昨年末の年金改革議論で自民が野党と衝突した経緯も、今回の膠着を物語る。

未来の展望と結末
自民が衆参同日選で勝利すれば、党は勢いを盛り返す。だが、石破政権は逆風に立ち向かう。議席が増えても、保守派の冷遇や保守政策の無視、リベラル左翼的政策のゴリ押しで批判が噴出し、「国を誤る」との声が響く。例えば、最近の選択的夫婦別姓推進が保守層の反発を招いた事例が、支持率低下の背景だ。高市早苗への期待が膨らみ、彼女の総理就任の道が開ける。清和会の再結集が進み、勝利で石破退陣と総裁選が動き出す。現状では、その道は遠く見えるが、衆参同時選挙勝利や清和会支援、石破政権支持率低下が揃えば大チャンスが到来する。

自民党の「自由で開かれたインド太平洋戦略本部」の初会合であいさつする麻生最高顧問(5月14日、党本部)

勝利の栄光は次世代リーダーが掴み、石破は退陣を余儀なくされる。石破に対して怨み骨髄の旧清和会の落選者、不出馬者が復活しその後「自由で開かれたインド太平洋戦略本部」に入ればこれは、自民党内の最大勢力となる可能性が高く、党内は大混乱。例えば、2017年の衆院選で落選した清和会メンバーが比例復活で返り咲いたケースが、今回の再編のヒントとなる。2024年衆院選データが示す通り、清和系の復活は保守再編の鍵だ。いわゆる裏金問題は起訴されず、国民の関心が薄れ、野党も勢いを失う。2025年夏の衆参同日選では経済や外交が焦点となり、野党の勝機は新スキャンダルや自民失策に依存するが、可能性は極めて低い。政策で勝負するしかない中、落選した元政治家の再起用が有利で、自民は大幅に勝率が上がると見込まれる。

自民党は衆参同日選で勝利を目前にしつつも、石破政権の時代は終焉を迎える。たとえ、衆参同時選挙をしなかった場合でも、石破政権が長えられる道はない。保守冷遇とリベラル左翼的政策で党内圧力と世論の反発が渦巻き、高市早苗や清和会の台頭が加速する。野党は新戦略を迫られ、いずれにせよ歴史的転換点が目前に迫っている。

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2025年6月7日土曜日

夫婦別姓反対!日本の家族と文化を守る保守派の闘い

まとめ

  • われわれ保守派の反対:選択的夫婦別姓は日本の伝統と家族観を脅かす。われわれ保守派は家族の一体感と文化を守るため断固反対。
  • 法務委員会の議論:2025年6月6日、立憲・国民が別姓導入法案、維新が旧姓使用拡大法案を提出。自民は親子別姓の懸念で早期採決を拒否。
  • 法的基盤:2015年最高裁は夫婦同姓を合憲とし、民法750条で姓の選択自由を保証。2020年法務省調査で同姓支持が約60%。
  • 文化的基盤:夫婦同姓は2000年の「氏姓制度」に根ざす日本の独自文化。儒教圏とは異なり、レヴィ=ストロースやハンチントンがその独自性を指摘。
  • 新たな反対視点:「選択的夫婦別姓」は問題をぼかす策略。デジタル効率(総務省2023年)、心理的結束(2019年日本家族社会学会)、文化ブランド(2023年観光庁)から反対。選択的夫婦別姓をめぐる議論は、家族観と文化の核心を突く問題だ。われわれ保守派はこれを日本の伝統と未来への挑戦とみなし、断固反対する。最新の議論、法的・文化的基盤、新たな反対理由を整理し、現代的で斬新な視点を加えて提示する。

最新の法務委員会:別姓導入をめぐる攻防


2025年6月6日の衆議院法務委員会では、立憲民主党と国民民主党が夫婦別姓導入を目指す民法改正案を、日本維新の会が旧姓の通称使用拡大を目的とした法案を提出した。自民党の山下貴司氏は、親子が異なる姓になることで家族の一体感が損なわれると懸念。旧姓の通称使用拡大で対応可能とし、早期採決を拒否した。

立憲民主党の米山隆一氏は、別姓を選んでも家族の絆は同姓夫婦と変わらないと反論し、家族内に単一の「家族姓」は存在しないと説明した。公明党の大森江里子氏は、現行法の改姓強制に人権問題を認めつつ、慎重な議論を求めた。

6月10日の次回委員会では参考人質疑が予定される。立憲は来週中の採決を狙うが、自民は徹底した議論を主張し、調整が続く。石破茂首相は党議拘束について、過去の脳死関連法案での détachment例を挙げ、今回は価値観の根幹に関わらないとして慎重だ。森山幹事長は党の一致を強調。共産党の山添政策委員長は、拙速な採決のリスクを避け、継続審議も視野に入れる。

法的・社会的基盤:夫婦同姓の意義と策略の言葉


最高裁大法廷は2015年12月16日、夫婦同姓を「合憲」と断じ、氏の統一が家族の一体感と社会の秩序を支えると明言した。現行の民法750条は、結婚時に夫婦が夫または妻の姓を自由に選べる仕組みだ。2020年の法務省統計によれば、96%の夫婦が夫の姓を選ぶが、妻の姓を選ぶ選択肢も存在する。制度の欠陥を訴えるのは的外れだ。夫婦の話し合いで姓を決められる日本に、別姓を押し込む必要はない。

野党の一部は夫婦別姓を「進歩的トレンド」と持ち上げるが、われわれ保守派はこれを日本の伝統の軽視と断じる。「選択的夫婦別姓」という言葉は、別姓導入による家族の一体感への懸念を薄める策略だ。1996年の法務省法制審議会がこの言葉を打ち出した時、伝統を重んじる層の反発を和らげようとした意図は明らかだ。われわれ保守派は、この言葉が問題の本質をぼかすと警戒する。

夫婦同姓で500年後は「全員佐藤さん」という主張もある。これは、東北大学の2022年シミュレーションに基づくが、非現実的な前提(出生率や結婚パターンの不変性)を無視する。2023年厚生労働省データでは、国際結婚が年間約2万件(全結婚の約4%)で、外国姓の導入が進む。民法750条は夫婦が夫または妻の姓を自由に選べ、2020年法務省統計で96%が夫の姓を選ぶが、妻の姓を選ぶケースが佐藤姓の独占を抑える。2022年内閣府「地域コミュニティ調査」では、地方で姓の多様性が維持されている。過去50年でも佐藤姓は1.6%(1980年)から1.5%(2020年)とほぼ横ばいだ。この誇張された主張は、別姓導入の根拠として弱い。


デジタル社会では、姓の統一が行政の効率性を支える。総務省の2023年「マイナンバー制度の運用状況報告」では、家族情報の統合が姓の統一を前提に効率化されていると推測される。別姓導入はデータベースの複雑化とコスト増を招く可能性がある。米国では、別姓による家族情報の不一致が税務申告のエラーを生む例が報告されている(2021年IRS「Taxpayer Advocate Service Annual Report」)。この視点は、伝統論に現代の技術的現実を加えた新たな反対理由だ。

日本の文化と新たな反対視点:伝統と現代の融合

日本の夫婦同姓は、2000年以上の歴史に裏打ちされた文化の結晶だ。奈良時代から続く「氏姓制度」は、家族の連続性を重んじ、『日本書紀』や『続日本紀』にその記録が刻まれる。「夫婦同姓は明治になってからの伝統」という意見は、これを無視し、歴史を矮小化したものにすぎない。

儒教文化圏の中国や韓国では、宋代以降、男性中心の家系継承が女性の姓の保持を強いた。韓国では2008年まで夫婦同姓の選択肢がなく、今も別姓が標準で、女性は男性の姓を名乗れない。日本は夫婦が自由に姓を選べる「選択的夫婦同姓」の国だ。文化人類学者のクロード・レヴィ=ストロースは『野生の思考』(1962年)で、日本の家族構造が血縁より社会的な結びつきを重視すると論じた。サミュエル・ハンチントンは『文明の衝突』(1996年)で、日本が儒教とは異なる文明圏を築いたと指摘した。

社会心理学では、姓の共有が家族の集団アイデンティティを強化する。2019年の日本家族社会学会調査(『家族社会学研究』Vol.31, No.2)では、同姓の夫婦が強い家族の一体感を感じ、子どもの社会的適応や自己認識に間接的な好影響を与えると報告された。別姓は子どもの社会的適応に微妙な影響を及ぼすリスクがある。

グローバル化の文脈では、夫婦同姓は日本の文化ブランドだ。2023年の観光庁「訪日外国人消費動向調査」では、訪日外国人の30%以上が日本文化全般に魅力を感じるとされ、家族文化はその一部と推測される。別姓導入は、この独自性を薄め、グローバルな均質化に流される危険をはらむ。2020年の法務省調査で、夫婦同姓を支持する声は約60%を占める。最高裁の判決と日本の歴史を顧みれば、夫婦別姓を「進歩」と呼ぶのは誤りだ。

われわれ保守派は、家族の絆、行政の効率、文化の独自性を守るため、別姓導入に断固反対する。これは単なる制度の話ではない。日本という国の魂をめぐる闘いだ。

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2025年6月6日金曜日

保守分裂の危機:トランプ敗北から日本保守党の対立まで、外部勢力が狙う日本の未来

まとめ
  • 米国の保守分裂:2015~2016年、トランプの「アメリカ・ファースト」で保守派が分裂。予備選は17人で泥沼化。ロシアのIRAとブティナが分断を煽り、2020年トランプ敗北に間接的に影響。コロナ対応が主因だが、分裂は結束を弱めた(Senate Intelligence Committee, 2020)。
  • 日本の保守分裂:自民党の岸田・石破のリベラル路線(LGBT法、移民)が、高市や安倍派を冷遇。2023年LGBT法で保守無視(『産経新聞』, 2023年6月17日)。日本保守党は2024年衆院選で3議席獲得。自民は過半数喪失(191議席)。
  • 飯山と保守党の対立:飯山陽は2024年補選敗北後、日本保守党を批判。2025年『日本保守党との死闘』出版。党は名誉毀損訴訟(2025年5月19日)。『Hanada』『WiLL』(2025年4月号)が対立を煽り、藤岡信勝、猫組長、井川意高、城之内みな、長谷川幸洋が批判に加担。
  • 外部勢力の脅威:日本にロシアのような工作の証拠はないが、中国や左翼が分裂を悪用する恐れ。中国は台湾で工作強化。保守の亀裂は外部勢力に付け入られる。
  • 団結の必要:米国の分裂は2020年敗北を招いた。日本は飯山と保守党の争いを修復し、外部の脅威に立ち向かうべきだ。内輪もめはリベラルと中国を喜ばせるだけだ。
米国の保守分裂とロシアの暗躍

2016年、共和党大統領候補指名に出馬したトランプ氏

2015~2016年、米国保守派はトランプの登場で大きく割れた。「アメリカ・ファースト」の叫び、国境の壁、ムスリム入国制限、保護主義。これらは草の根保守の心を掴んだが、自由貿易や国際協調を重んじる伝統派と真っ向衝突した。共和党予備選は、クルーズ、ブッシュ、ルビオら17人が火花を散らす戦場と化した。価値観の違いがむき出しになったのだ。

クルーズはキリスト教保守を掲げ、ブッシュは穏健派の旗手だった。だが、トランプの過激な言葉がすべてを飲み込んだ。党内は「反トランプ」と「親トランプ」に分裂。『ナショナル・レビュー』(2016年1月22日)はトランプを「保守ではない」と断じ、FOXニュースの一部は熱烈支持。草の根の怒りは党エリートへの不信を爆発させ、予備選は罵倒と陰謀論の泥沼と化した。この分裂は、保守の力を削ぎ、2016年本選の戦略を乱した。

2020年以降、衝撃の事実が明らかになった。ロシアの工作機関IRAマリア・ブティナが、この分裂を意図的に煽ったのだ。IRAは偽アカウントでSNSを埋め尽くし、トランプ支持や反エスタブリッシュメントの投稿を拡散。愛国主義や反移民感情を煽り、伝統派を「裏切り者」と攻撃した(Senate Intelligence Committee Report, August 2020)。ブティナはNRAや保守イベントに潜入し、共和党員の不信を増幅。これらの工作は、保守の団結をズタズタにした。

この分裂は、2020年のトランプ敗北に間接的に響いた。予備選の傷は、伝統派の一部を「反トランプ」に固執させた。リンカーン・プロジェクトはバイデン支持に回り、穏健派の票を奪った(『The Atlantic』, October 2020)。IRAの偽情報も2020年まで続き、保守の分断を維持(FBI and CISA Advisory, September 2020)。だが、トランプは共和党支持者の9割以上を確保(Edison Research, 2020年11月)。敗北の主因はコロナ対応への批判(Gallup, 2020年10月:不支持率58%)やバイデンの組織力だ。それでも、初期の分裂が保守の結束を弱め、スイングステートでの敗北を招いた側面は否めない(『New York Times』, November 4, 2020)。

日本の保守分裂の実態

日本でも、保守派の分裂が加速している。米国の2015~2016年を思わせる。自民党では、岸田文雄や石破茂のリベラル寄り政権が、LGBT理解増進法、移民改革、グローバル経済を推し進める。一方、高市早苗や旧安倍派は憲法改正、対中強硬、国家主権を訴える。だが、両者は明確に対立する段階に至っていない。政権は保守派を冷遇し、不満を溜めさせている。
2023年のLGBT法成立では、岸田政権が保守派の声を無視。『産経新聞』(2023年6月17日)は、高市が党内議論の不足を批判したと報じた。2024年の自民党総裁選でも、高市は保守の支持を集めたが、主流派に冷たく扱われた(『読売新聞』, 2024年9月28日)。旧安倍派は政治資金スキャンダルで弱体化。憲法改正や安全保障の声は、政権のグローバル路線に埋もれている。


2023年、百田尚樹と有本香が日本保守党を設立。伝統文化の尊重、反LGBT、反移民を掲げ、勢力を伸ばした。2024年10月の衆院選で3議席を獲得。得票率2%超で国政政党に躍進した。自民党のリベラル路線は保守層の怒りを買い、2024年選挙で単独過半数を失った(191議席、従来247議席)。公明党との連立も過半数に届かず、他党の協力が必要となった。

日本保守党と飯山陽の対立は、分裂の象徴だ。飯山は2024年4月の東京15区補選で4位に終わり、PTSDを理由に支部長を退任。10月の衆院選で比例候補から外され、党のガバナンスと資金透明性を批判。YouTubeで12本の動画を公開したが、資金負担の主張を「交通費や食事代」と訂正し、矛盾を突かれた。百田は飯山を猛非難。支持者が攻撃をエスカレートさせた。飯山は2025年5月、『日本保守党との死闘』を出版し、党を批判。対立は東京地裁の名誉毀損訴訟に発展した(2025年5月19日)。党は1000万円以上の賠償を求め、飯山は訴訟を報復と反論。

かつての百田尚樹氏と飯山陽氏

この対立を、保守系メディアが煽った。「WiLL」は、日本保守党に対し「LGBTQ問題への対応が不十分」との主張を展開。特に、党が保守層の期待に応える具体的な政策を打ち出せていない点を問題視している一方、「月刊Hanada」は、日本保守党の元候補者・飯山あかり氏による批判記事を掲載これが論争の火種となった。保守の足並みは乱れる一方である。

外部勢力の脅威と保守の団結

外部勢力の影がちらつく。米国では、2020年以降、IRAやブティナの工作が保守の分断を狙ったと判明。日本では証拠はないが、危険は潜む。中国は台湾や豪州で影響工作を強化。SNSやロビー活動で日本を狙う可能性がある。左翼も保守の亀裂を巧みに利用する。米国でロシアが保守を弱らせたように、日本でも外部勢力が分裂を悪用する恐れがある。

2019年04月26日、ブティナに対し、ワシントンの連邦地裁は、禁錮1年6月の実刑判決を言い渡した。 

2016年の米国大統領選挙の共和党予備選挙で、ドナルド・トランプの最大のライバルはテキサス州の上院議員テッド・クルーズだった。クルーズは保守派、特にキリスト教福音派やティーパーティー運動の支持を集め、インディアナ州予備選挙で敗れるまでトランプと激しく争った。クルーズはトランプを「道徳的に無責任」「完全に不道徳」と批判し、女性への不適切な発言、過去の不倫疑惑、トランプ大学の詐欺疑惑といったスキャンダルや、保守派らしくない政策、過激な言動を問題視した。トランプもクルーズを「ライイン・テッド」と呼び、クルーズの妻や父親への個人攻撃で応酬し、対立は激化した。

その後、クルーズは2016年の共和党全国大会でトランプを支持せず物議を醸したが、党の結束のため最終的に支持を表明。トランプが大統領就任後、クルーズは税制改革や規制緩和で協力し、2018年の中間選挙ではトランプの応援を受けて上院議員に再選。2020年にはトランプの再選を支持し、2024年のトランプの大統領復帰後も協力関係を維持。クルーズは2024年予備選挙に出馬せず、党内での地位を保ちつつ保守派の政策を推進している。このように、両者は当初の激しい対立から現実的な同盟関係に移行した。

日本の保守はただでさえ自民党内の保守派の動きが封じられ、保守政党は未だ微弱勢力にすぎない今こそ、党派を超えて団結せねばならない。保守派ならば、党派など異なっても、基本的な部分では一致できるはずだ。米国の教訓は明快だ。内部対立は外部に利用され、国家と伝統を守る力を奪う。2015~2016年の分裂は、2020年のトランプ敗北に響いた。日本の保守も、同じ轍を踏むのか。飯山と日本保守党の争いは、感情と訴訟で溝を深めた。無論互いに批判するなとは言わない、批判すべきことは批判しながらも、協力すべきは協力すべきだ。保守派は事実に基づく対話で亀裂を埋め、外国勢力や左翼の介入を防ぐべきだ。国益と伝統を守る戦いは、内部の争いではなく、外部の脅威に立ち向かうことで勝ち取る。内輪もめに溺れれば、リベラル左翼や中国共産党を喜ばせるだけだ。団結こそ、保守の未来を切り開く。

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