まとめ
- 2025年6月14日、米ミネソタ州でホートマン下院議員と夫が殺害され、ホフマン上院議員と妻が重傷を負った政治的動機の暗殺事件が発生。
- 容疑者ボールターは逃亡中であり、車から70人以上を名指しした殺害リストが見つかり、事件が政治的テロである可能性が浮上。
- ホートマンは不法滞在者健康保険廃止に賛成するなど信念を貫いた議員で、ホフマンは教育と福祉に尽力した重鎮だった。
- 日本メディアは事件の背景報じず、報道の偏りや政治的配慮が懸念され、国民の知る権利が脅かされている。
- 過去の安倍元首相暗殺と公判遅延が示すように、日本でも政治的暴力のリスクが高まりつつあり真実追求の必要性は、ますます高まりつつある。
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暗殺されたメリッサ・ホートマン下院議員と夫マーク氏 |
2025年6月14日、米ミネソタ州で異様な銃撃事件が起きた。州議会議員2人が襲われ、メリッサ・ホートマン下院議員と夫マーク氏が未明に自宅で暗殺された。同じく狙われたジョン・ホフマン上院議員と妻は重傷を負ったが、手術で命をつないだ。ウォルズ知事は記者会見で「政治的動機による暗殺だ」と断言し、州民を震撼させた。容疑者はバンス・ボールター、57歳。警備会社プレトリアン・ガード・セキュリティーでパトロール部門の責任者を務め、軍の訓練を受けた男だ。今、彼は逃亡中だ。州を挙げての大捜索が始まり、地元警察トップのマーク・ブルーリー氏は「尋常じゃない規模の捜査だ」と息巻く。ボールターの車からは、70人以上を名指しした殺害リストが発見された。議員や中絶支持者らの名が並び、事件が単なる犯罪を超えた政治的テロである証拠が浮上した。警察は複数の容疑者を拘束し事情を聴いたが、勾留者はおらず、捜査は混迷を深めている。
ホートマンとホフマンの信念と背景
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防犯カメラの映像に、暗殺犯バンス・ボールターが警察官のように見せかけたラテックス製マスクと警備員の制服を着てミネソタ州議員の自宅のドアをノックする様子が映っていた。 |
メリッサ・ホートマンは1970年5月27日、ミネソタ州ヘネピン郡で生まれた。弁護士として出発し、2005年から州下院議員としてツインシティーズ北部を支えた。ボストン大学で政治学と哲学を学び、ミネソタ大学法学部で法務博士号を取得後、ハーバード・ケネディスクールで公共行政学修士号を手に入れた。アル・ゴアやジョン・ケリーのインターン、ジョン・サマービル判事の事務員を経験し、抜群の経歴を積んだ。2023年の立法会期では、民主党が僅差で多数を握る中、中絶権の拡大、娯楽用マリファナの合法化、有給家族医療休暇の義務化を推し進め、ミネソタを変えた。しかし、2025年、彼女は不法滞在者の健康保険廃止に賛成し、党内の反対を押し切って共和党と手を組んだ。この決断が命を奪う引き金となったと見られる。彼女の勇気は、党の枠を超えた信念の証明だった。
ジョン・ホフマン上院議員は1965年1月17日生まれで、ミネソタ州アノカ・ヘネピン郡を代表する民主農民労働党(DFL)の重鎮だ。2005年からアノカ・ヘネピン学区教育委員会で活躍し、連邦機関の調整理事会で幼児教育や特別ニーズ児童の支援に尽力した。2012年に初当選し、以来2016年、2020年、2022年と再選を重ね、2017年から2020年まで少数党幹事長を務めた。彼は教育と家族支援を重視し、予算配分や社会福祉政策で実績を残してきた。今回の事件で標的にされたのは、彼のこうした立場が政治的対立を招いた可能性を示唆している。
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ミネソタ州議会 |
この事件の根底には、ホートマンが支持した法案がある。不法滞在者に無料健康保険を提供する政策を廃止するものだ。コスト増と予算赤字を憂う共和党の声に応えた選択だったが、民主党内では異端とされた。だが、その勇気が彼女を標的に変えた。捜査当局は、ボールターが警察官を装い複数の政治家を狙ったと明かす。政治的意見の違いが暴力に結びつく危険性が、痛ましい形で露呈した。
日本メディアの沈黙と日本の危機
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米国のこの恐ろしい現実を示すこの事件の背景を、日本メディアはスルーしている。なぜか。国際ニュースでは反トランプデモや中東情勢が優先され、他の事件に埋もれる。不法移民や政治的暴力はデリケートで、国内の政治バランスを崩す恐れがあるから報じない可能性もある。さらには「報道しない自由」で国民の知る権利を奪っているとの批判さえある。この沈黙は、反トランプデモの本質や政治的暴力の脅威を隠してしまう。
米国のこの恐ろしい現実を示すこの事件の背景を、日本メディアはスルーしている。なぜか。国際ニュースでは反トランプデモや中東情勢が優先され、他の事件に埋もれる。不法移民や政治的暴力はデリケートで、国内の政治バランスを崩す恐れがあるから報じない可能性もある。さらには「報道しない自由」で国民の知る権利を奪っているとの批判さえある。この沈黙は、反トランプデモの本質や政治的暴力の脅威を隠してしまう。
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日本では新聞紙の暗殺報道の見出しが全て「安倍元首相撃たれ死亡」という不気味な一致を見せた |
過去の日本にも政治的暴力の暗い影が残る。2022年7月8日、奈良市で起きた安倍晋三元首相の暗殺だ。演説中、41歳の男が手製の銃で撃ち殺した。動機は統一教会への恨みとされるが、事件後、メディアは関係者の名前を隠し、国民に真実を伝えなかった。さらに異常なのは、2025年6月16日現在、暗殺から3年近く経つのに公判がまだ開かれていないことだ。この異常事態は、政治的圧力や情報隠しの可能性を示し、ミネソタの事件報道と重なる。
ミネソタのテロは、米国の政治的分断が暴力を生む現実を突きつける。ホートマンとホフマンの信念が命を奪われ、または脅かされた悲劇だ。日本メディアの沈黙は、報道の偏りや政治的配慮、情報隠しの兆しを示し、この闇はますます深まりつつある。安倍元首相の事件と公判遅延が示すように、政治的暴力は対岸の火事ではない。今、目を覚ませ。真実を求める闘いはここから始まる。
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